(47)無性にまたあのラーメンが食べたくなる。

筆者はラーメンが好きである。決して鹿児島のラーメンを食い尽くしたと言うほどのマニアでないことは最初に申し上げておくが、それでもテレビなどで取り上げられたりすると食べたくなって、これまでおそらく10件程度は廻ったかもしれない。でもいずれも肩透かしだった。ラーメンは、おそらく一度食べて、また行きたくなるほどのラーメンに出会うことなどないのではないのか、とさえ感じている。

その中で今でもお気に入りは、下荒田の木馬ラーメン、ざぼんラーメン、串木野の時計台、のり一、くろいわ、そして残念ながら今はもうなくなった吹上の華龍閣や、のぼるのそれらである。忘れられず懐かしく、時折また食べたくなって仕事で近くを通る時など寄らずにいられないのである。おいしいものは生涯を通じてそういうものだと思う。

筆者は大学卒業を前に就職先をどうするかの時期に、最初に試験を受けたのが長崎のリンガーハットの前身である浜かつである。その日の昼食でリンガーハットの長崎ちゃんぽんをごちそうになったのだが、ほとんど喉を通らなかった。はっきり言って不味く感じた。どんぶりにたっぷりとした量の具と太麺と白濁したスープなど、あまりに見慣れないその見た目に、鹿児島で食べ慣れた澄んだスープのちゃんぽんとの違いを感じたのである。もっと言えば、バイアスに過ぎるかもしれないが、ちゃんぽんにはウスターソースをかける派であるからとにかく違和感があったのである。

就職先を決めるのに、もう一社ぐらいは受けとくべきではと考え、次に博多の大きな中華料理の宴会場の試験も受け、弟にどちらにするかあみだくじを引かせて、結局博多の宴会場の方に就職したのであるが、不思議なもので6年博多で生活するうちには、最初不味く感じていた博多ラーメンも牛バラ湯麵もリンガーハットの長崎ちゃんぽんも徐々に忘れられないものとなっていった。今でも榎田のバイパス沿いにあった顔に青あざのあるオヤジさんがつくるギトギトスープの博多ラーメンを食べたくなる。

鹿児島にUターンしてからの就職先の近くには木馬ラーメンしかなく当初は不味いなと感じてさほど通うつもりはなかったのだが、それでも勤務先の社長のお供もあったりでいつしか忘れられないものとなっていったのである。今は2代目が継いでおられるが、変わりなく美味い。

鹿児島ラーメン王決定戦とかいう催し物が数年前から行われていることは知っているが、これまで一度も行ったことはない。始まった最初の年は鹿児島のラーメンと言ったら、ざぼんラーメンに決まっているだろうとざぼんラーメンに投票するつもりで行ってみたい気もしたが、いつでも好きな時に食べられるから寒い屋外の会場にわざわざ行くことはないと思ったし、当時はすでに健康を考える年齢になってしまっていた。

そもそも鹿児島ラーメン王決定戦はテレビで目にするだけで、その優勝店がどのようにして決まるのかさほど気にしていなかったが、2024年2月開催のテレビの予告を見て、よくよく考えてみたら出店するラーメン店の常日頃その店が提供するラーメンで勝負するのではなく、この企画のために作った特別なラーメンが対象で、しかも、すべての出店のラーメンを全部食べた上でどれが一番おいしかったかを投票する人がどれだけいるだろうと考えたら、3日間とはいえ、そんな人はなかなかいないだろうし、つまりは、投票の動機はラーメンの前評判とか、見た目の豪華さとか、現場の行列の多さで引っ張られたからとかであり、全てのラーメンを食べて、その上で一番おいしかったラーメンに投票する訳ではない人が大多数なのではと想像し、何か違う気がするのである。