(37)タマゴ引換券がただの紙切れに

年に数回、地鶏刺しを食べたくなる。そんなときは坂之上の地鶏刺し屋のものと決めている。銀色のトレーに玉ねぎのスライス、その上に叩きにしたモモ肉と胸肉の刺身が並び、ふたつのにんにくの粒と特製の甘い醤油と一緒にパックされ、500円と1,000円の2種類がある。買うとタマゴの引換券がもらえる。その引換券を使ってタマゴと交換したことはなかった。券は溜まる一方で、かなりの枚数が手元にあり、鳥インフルエンザでタマゴの値段が高騰したころには車のダッシュボードの上にいつでも交換できるようにまとめておいた方がいいよなと思いつつもそうすることなくタマゴと交換する機会を逃していた。今度こそはと冷蔵庫の横っ腹に溜まった引換券をまとめてクリップで挟んで車のダッシュボードの上に準備万端にしておいた。

ところがいざ鳥刺し購入のついでにタマゴ引換券を発動したのであるが、店員さん曰く「タマゴ交換券は、去年終わったんですよ」と言うじゃないの。一言である。店員さんからそれ以外何も出てこなかった。えっ?嘘?そんな?どうして?溜まった券は何にもならないの?と心の中はグワングワン揺れ動く。あまりのショックで言い返す気力もなく買った鳥刺しをぶら下げてしょぼんと店を出た。

 

このあまりのつれなさは一体何だろう。貯めに貯めておいて、タマゴ高騰のここぞという時に交換しようと嬉しさ倍増していた気持ちはどうなるの?

物価の優等生だったころのタマゴの引換券だとどうでも良かったのだけれど、タマゴ一パックが300円を超える時期に本当にタイミングとしては勝ったと言えるタイミングだったのだ。なのに、あの一言で10年以上かけて貯め込んだ券が紙屑となってケリを付けないといけないのである。2パック分は交換できたはず。お金にすれば数百円のことだから諦めよう。とは思ったけどここに書き残しておくことにした。あの鳥刺し屋の仕打ちは許せない。でも鳥刺しはどうしてもあそこのものでなければならないから許すしかない。