(19)地方自治体のホームページがこんな表現でいいのか。(コンビニで戸籍謄本を取れなかった顛末)

筆者は、ほどなく年金をいただける年齢になろうとしている。だいぶ前に届いていて記入を済ませていた年金請求書なるものを年金事務所に提出するために専用のフリーダイヤルに予約を入れたら、申請時に必要な書類として年金請求書の他に、全部が記載された戸籍謄本、年金の振り込み先に指定した口座の通帳、普通の印鑑の4点が必要という説明を受けた。そこで、戸籍謄本については市役所ではなく、コンビニで取得しようと初めてチャレンジしてみた。

ところが、コンビニのマルチコピー機の操作画面に「戸籍」の二文字が使用されたメニューが出てこないのである。「住民票の写し」とか「印鑑登録証明書」とか「各種税証明書」の3項目しか出てこないのだ。もしかして「住民票の写し」とか「印鑑登録証明書」とか「各種税証明書」の3項目のメニューを選択した次のメニューに隠れているのかと思い恐る恐る試すが、その先にも「戸籍」の二文字が現れず、すべて途中で中止した。

そんなはずはないと気を取り直し、最初の画面に戻ったところ「証明書交付サービス(コンビニ交付)」の他に「戸籍証明交付の利用登録申請」というボタンを発見したのである。おお、これだったのかと思い、さっそく「戸籍証明交付の利用登録申請」というボタンを選択して進めて行ったのだが、しかし今度は、本籍地の住所と筆頭者名とかを入力するよう要求してきた。うーん、これには思わず唸った。まあ自分の本籍などの情報なのだから当の本人が知っていて当然と言えばそうなのだろうけど、人生で謄本を取得したり戸籍に触れたりする機会はそう滅多にない者にとり、果たして正確に本籍地や筆頭者はだれなのかと問われて即答できる者がいるだろうか。もう断念しようかと思ったが画面左上に救いの手段を見つけた。手入力の代わりに運転免許証をセットして読み取る方法らしい。運転免許証をセットして進めると今度は、運転免許証の暗証番号1と暗証番号2を要求してきた。記憶の中をさまよい暗証番号を思い出せたのだが、どちらが1で2なのか確証が得られない。暗証番号を間違うとややこしそうなことが起きそうな気がしたのでこのコンビニでは一旦断念することとした。運転免許証の暗証番号1と暗証番号2は、確か免許更新の時に控えた覚えがあったので自宅に帰りもう一度出直すしかなかった。

念のため市役所のサイトで調べたら、戸籍証明書の「コンビニ交付にはマイナンバーカードが必要です。ただし、令和2年2月までにコンビニAP登録したカードはそのままでは戸籍証明書のコンビニ交付を利用できません。・・・・」という訳の分からない血の通わない表現の説明文に出くわした。IT業界でも血の通わないソフトウェアやその取説が多いのだが、地方自治体のホームページで「AP」などと何かを短縮したような言葉を使用していいのだろうか。想像するに、別の何かの文章で使われたものをそのまま貼り付けたのであろう。こうなってはIT業界の端くれで飯を食ってきたものとして意地でもコンビニで戸籍謄本を取得することにこだわることにした。果たして本当にコンビニで戸籍謄本を取得することができるのか市役所の窓口に直接電話して聞いてみた。

すると「コンビニAP」とは何のことなのか説明してもらいたかったが、相手も良く分かっていないのか、こちらに説明してもどうせ分からないだろうと踏んだのか、「コンビニAP」の意味は明確に教えてもらえなかったし、結局、今所持しているこの私のマイナンバーカードを使いコンビニで戸籍謄本が取れるのか取れないのかを聞いたら、取れるというのである。その時、質問の途中でマイナンバーカードの取得年月を尋ねられたので手元のマイナンバーカードを見ながら2行に記載のある有効期限を伝えてからの、結果、コンビニで戸籍謄本が「取れる」という答えだったのである。何だかモヤッとした感じではあるが、取れるというのだ。

そこで、運転免許証の暗証番号1と2を確認し、また別の近くのコンビニに行き、たぶんこれを済ませたら謄本のメニューが出てくるのだろうと踏んで「戸籍証明交付の利用登録申請」というボタンを選択して運転免許証を読み取らせて「戸籍証明交付の利用登録申請」という申請を完了することができたのである。この「戸籍証明交付の利用登録申請」の申請の情報を印刷するのに10円支払った。で、その印刷物を見てまたもや愕然とする。そこに書かれていたのは、「申請情報を受け付けました。審査完了まで5開庁日ほどお待ちください。」とのことである。つまり、即時この申請が通ってコンビニで戸籍謄本が取得できるわけではなかったのだと、まあそういう風に理解(誤解)したのである。(この申請そのものは、筆者には全く不要な申請であったことを後刻、市役所の窓口で教えてもらったし、市外に在住する人向けのサービスであることはネットで調べて分かった。「戸籍証明交付の利用登録申請」という名称は、誤解を与える可能性があるので、例えば、「居住地区外からの戸籍証明交付の利用登録申請」などと申請の名称を工夫すべきだろう)

コンビニを後にしてその足で昼食もとらず市役所に直行した。窓口に並ぶためには、整理券を発行してもらわなければならないのだが、戸籍謄本を申請する書類に記入したものをチラッと見た係りの女性から本籍地住所と筆頭者名が未記入であると指摘された。正確には分からないと答えると他所の住所の場合、ここでは発行できないというようなことを説明されたので、ここの市であることは間違いないと思うと言って、やっと整理番号をもらえた。先客が10人ほどいて30分ほど待たされた。待っている間に、そもそも戸籍(地)とは何のためにあるのだろうとかネット検索したりした。

窓口では対応してくれた男性にコンビニで取得できる便利なサービスとは、とても言い難い。このままでは「コンビニ」(訳すると便利)ではないという事実を説明した。腹が減っていたので余計腹が立っていたができるだけ抑えた。

窓口の男性の説明によれば、令和2年2月以前にマイナンバーカードを取得した人のカードのICチップには、現行サービス(令和2年3月以降に発行されたマイナンバーカード)にはないアプリ(AP)がインストールされていて戸籍証明以外の書類は取得できるが、そのアプリを削除しない限りコンビニで戸籍証明は取れないというのである。つまり、「AP」=アプリのことだったのだろうか。

まず、少なくともいち早くマイナンバーカードを取得し国の施策方針に順応し協力した人達に対してのサービスが、後になって慌ててマイナンバーカードを取得した人達よりも、いくつかではあっても削られているのは実に理不尽と言える。先見の明があり、一日の長がある我々に何らかの手厚い周知やマイナンバーカードのサービス更新の手段を講ずるのが政治や行政の責任ではなかろうか。いや、これは明らかに政治家とお役人の責任である。(数年前、甘利とか言う政治家がこのマイナンバーカードを推進する担当大臣としてよくテレビなどに顔を出していたが、わいろ不祥事と不眠障害とかでお隠れになったのを思い出した)何でもっと、ホームページの文章に優しさを込められないのか。折角、市民に情報提供する有効な手段としてのホームページがある訳だから、分かりやすく表現するのは当然である。逆に難しくしてどうするんだ。と言いたい。この温かみのない表現がひいては、いちいち市の担当職員の方がその説明をするという手間を引き起こしている。

時の経過とともにサービスが向上するのは当然である。後からマイナンバーカードを取得した人たちが得をすることがあっても仕方ないことだろうが、でも、その追加されたサービスを受けられない人達が現存している事実を看過している無責任な政治家やお役人がいるのである。このケースの場合、市役所の窓口に来た一人一人に皮肉を言われながらもいちいち丁寧に説明をしなければならないだろう一職員の方が、この制度を開発し取り仕切る政治家やお役人になり替わり、この非生産的であり、どのくらいの人数になるのか分からない人たちが戸惑い立腹している事実を、どうにかしなければと上層部に提言することは、おそらくないのだろうと想像できるのである。このことを一般人に説明するには難しいだろうし、筆者のように実際コトが起きて憤慨した者ならともかく、コトが起きていない人が聞いてもピンとこないだろうし、どうせ放っていてもマイナンバーカードの更新時期が来るし、といったような思惑だけで、サービスを提供する側、説明する側の優しい心が伴わないのであろうことも想像できるのである。

 

追伸

ある政治に関わる方に、上述した市役所のホームページの表現について、分かりにくいとご相談したところさっそく以下のような表現に変更されていた。

 

<訂正前>

コンビニ交付にはマイナンバーカードが必要です。ただし、令和2年2月までにコンビニAP登録したカードはそのままでは戸籍証明書のコンビニ交付を利用できません。

 

<訂正後>

コンビニ交付にはマイナンバーカードが必要です。ただし、令和2年2月までにコンビニ交付サービスの利用登録をしたカードはそのままでは戸籍証明書のコンビニ交付を利用できません。

 

ひと通り苦い経験をした筆者には理解できても、この問題に初めて直面した方が、この<訂正後>の表現を見て果たして戸惑わないのかどうかだ。まあ、縦割り行政では所詮こんな程度であろうか。

 

ところがである。

令和2年2月以前はこうで、以後はどう変わったからを説明するサイトがどこかにあるはずで、そのサイトをリンクするURLを貼り付けるくらいできないものなのかなあ。と色々ネットで検索してみたところ、どうやら他の自治体では、この令和2年2月以前に取得したマイナンバーカードで戸籍謄本がコンビニで取得できない問題がまったく検索されて来ないのである。というか、問題があるのは何と筆者の住む自治体(市)のみのようなのだ。国の施策がらみだからどこも同じ問題があるのだろうと思っていたがそうではないようだ。もしそうだとしたら、筆者の住む自治体(市)は、日本国中の唯一、令和2年2月以前に取得したマイナンバーカードでは戸籍謄本がコンビニで取得できない自治体だということになる。つまり問題の解決のためには、マイナンバーカードのICチップの書き換えをしにわざわざ市役所に出向かなければならないという面倒を市民に強いている唯一の自治体ということになる。

 

自治体によりマイナンバーカードのサービスの開始時期もサービスの種類もまちまちなの?!

 

マイナンバーカードのサービスのシステムや関連アプリの開発が自治体により異なるの?!